イヤな噂を聞きました.「アカハラ」です.「赤腹」って?「アカデミック・ハラスメント」の略です.大学の中でいろいろな権威を使ってハラスメントをする行為全般を言います.
今回聞いた噂は「論文の横取り」です.一言で言うと「学生の書いた論文のfirst authorを自分の名前にした教員がいる」ということです.率直に言って学生では「論文」は書けません.内容もさることながら,それなりの”お作法”や”しきたり”めいたこともあります.論文の内容にしても,よほど優秀な学生でないと,自分で考えたことが,学術論文のレベルに達することはまずありません.ほとんどの場合は,教員が指示したテーマ,内容で学生が実験なりプログラム開発をするというのが普通のパターンです.ですからもちろんアイデアはほとんどの場合教員のものです.しかし論文はアイデアだけでは成立しません.アイデアを実際に実証するプロセスが必要です.このプロセスは時間と労力が必要ですから,そこのところを学生,特に大学院生が担うわけです.そして得られた成果は学術論文として社会に発信します.
論文において,first authorというのは大きな意味を持ちます.極端なことを言えば,first author以外はほとんど意味がないということもあります.ですからこのfirst authorを誰にするかというのは,大きな問題です.いろいろな見解があります.
- アイデアを最初に言い出した人
- アイデアを実証した人
- 論文を書いた人
通常は2=3の場合が多いので,結局は「アイデアを言い出した人」か「アイデアを実証した人」かということになります.
今回の噂は某先生が,学生に指示して実験(プログラム開発と測定)をさせ,論文(英語)を書かせ,ある学会(国際発表会)に投稿する際に,教員の名前をfirst authorにして投稿したと言う噂です.昔と違って最近ではほとんどの学会がweb上での投稿になっていますので,その気になれば,学生でもすぐにできます.今回はどういう経緯だったのか,詳しいことは知りませんが,学生から原稿を受け取って,著者の名前の順番を変えて投稿したということらしいです.むろん投稿する前に原稿を精査して直すべきところを指示し,コメントを与え,場合によっては書き直しして,という作業をされたのだと思います.自分の経験から行って,他人の論文を添削するということ,それも特に英文の場合は,自分が書くよりもはるかにエネルギーを消耗します.ですからその先生としては「これだけ苦労したのだし,しかも自分が言い出したアイデアなんだから,first authorになるのは当然」と思われたのかもしれません.
しかしなんかしっくりきません.確かに「横取り」とは言えないかもしれません.その先生は学科の会議でも「重要な論文はサーキュレーション(配布度といった意味)の観点からも,名前の売れている教員の名前をfirst authorにして出している」とポロッとおっしゃったことがあります.一つの見識かもしれません.しかし学生の立場からしたらどうでしょう?学生にとっては論文を書くということは,一大事業です.ものすごく苦労したと思います.それを自分が筆頭著者になれないことに,どう思うでしょう?その先生がどれほど苦労されたかはりませんが,学生の苦労よりは少ないはずです.学生からしたら「トンビに油揚げ」の感があるのではないでしょうか?ましてや今回は国際学会(アメリカ)でしたから,学生としては「この論文が通ればアメリカで発表できる!」と意気込んでいたような気がします.しかしあっさりと先生が発表しました.
このこと,どう考えるべきかわかりません.肯定する人も否定する人もいると思いますが,私はどうにも納得できません.昔「写楽殺人事件」という推理小説を読みました.主人公(大学助手)の「世紀の大発見(写楽の正体がわかる浮世絵を発見,でも実はそれは贋作)」を指導教授が横取りするというのが事件の伏線になっています.主人公への「おまえの名前では弱い.○○先生が発表してこそ世間が注目する」という”腰巾着”助手の言葉と,先ほどのサーキュレーション云々の言葉は,全く同じです.このようなことは,小説の世界だけだと思っていましたが,まさに”灯台もと暗し”.自分のいるところで,似たようなことが行われていたとは,想像もしませんでした.まさに「事実は小説よりも奇なり」でしょうか.
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(なお,上記の内容は一方の当事者の話を間接的に聞いただけですので,もう一方の当事者の話を聞くまでは,確定的なことは言えないことをお断りしておきます.ただし,その先生の日頃の言動から,「そういうことも十分あり得るな・・・」と思う同僚が多くいることを申し添えておきます.)
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